其の三 筆者、アテルイに会いに行く!


 

今回のアップは2018年2月18日です。

 

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歴史上で日本人最強のヒーローの代表格は「阿弖流為(あてるい)」です。彼はナガスネヒコの子孫にあたり、蝦夷(えみし)の族長です。22年もの長きの間、朝廷軍から蝦夷の地を守りぬいた真のリーダーでした。

 

 

神話の時代にニギハヤヒとナガスネヒコが創りあげた日下国(ひのもとのくに)を神武天皇が奪いに来ました。故国を追われたナガスネヒコが東北で創りあげた日上国(ひたかみのくに)をその子孫たちは守ってきました。

 

 

しかし平安時代になり、日上国を神武天皇の子孫である桓武天皇が奪いに来ることになったのでした。 神話の時代の因縁が、1400年後に繰り返されたのでした。

 

 

 

リュウさん、ナガスネヒコ、アテルイはまぎれもなく「日本の魂を一手に担う」最強の人物だった!


あきまん様
あきまん様

 

リュウさんの生みの親であられるあきまん様は北海道(蝦夷)出身の方です。アーケードゲームに前人未踏の「日本の魂を一手に担う」キャラとしてリュウさんを生み出されたあきまん様は、この抽象度の高く難しいテーマをリュウさんに託されました。

 

 

リュウさんはナガスネヒコとアテルイの血が流れておられるあきまん様だったからこそ生み出せた主人公だったのです。こういうことは理屈を超えた領域で動かされているとしか言えません。

 

 

筆者はリュウさん、ナガスネヒコ、アテルイの共通点は「日本の魂を一手に担う」人物であるということに気づかされました。

 

 

ストリートファイターシリーズはまぎれもなく高次領域からの情報が刻印され世界的に広まった創造物なのです。

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

アテルイは、教科書では朝廷に抗った逆賊として扱われています。つまりアテルイはアンチヒーローなのです。しかし本当のアテルイは私利私欲を離れ、自らの命と引き換えに蝦夷と民を守り抜いた正真正銘のヒーローだったのです。

 

 

上の動画はアテルイの実像に迫った貴重な映像です。ぜひともご覧くださいね!!!(大沢たかおさん演じるアテルイは、めちゃくちゃカッコええです!)

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

作家の高橋克彦先生は、アテルイが生きた土地に生まれた方です。高橋先生は『火怨』にアテルイの真実と生き様を魂をこめて書き綴っておられます。日本人最強のリーダーも、苦悩し逡巡し涙を流した等身大の人間だったことを思い知らされます。『火怨』は多くの日本人の魂を揺さぶった作品として評価され、吉川英治文学賞を受賞されました。

 

 

筆者は今回初めて『火怨』を読みました。上下巻合せて1000ページ超の大傑作を、涙ながらに読了しました。

 

 

読者の魂をゆさぶる作品からアテルイを皆さまにも感じていただきたく、以下引用させていただきました。筆者が探求してきたこともシンクロしていることに気づかされます。

 

火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

2002/10/16火怨 下 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

火怨 下 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

2002/10/16

 

「市は物で溢れかえっておる。食い物から絹や刀まで、ないものを思い付く方がむずかしい。かほどに満たされながら、なにゆえに陸奥に固執する? 攻め取りたいのは我らの方だ。そこがどうにも分からんな」

 

「黄金だ」

 

「そりゃ承知だがーー」

 

 伊佐西古(いさしこ)は母礼(もれ)と向き合って、

 

「仏像を作る以外にさして役立たぬ物。我ら蝦夷には無縁の物ではないか。礼を尽くして、くれと言うたなら考えぬでもない。それを力で奪おうとするから戦さとなる」下巻p14

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

 阿弖流為は真面目な顔で続けた。

 

「いかにも勝てぬ戦さであろう。それでも、朝廷に屈すれば今の蝦夷の暮らしが守れると思うか? 貧しさばかりなれば耐えられようが、朝廷は蝦夷を人と見ておらぬ。蔑まれたとておまえは構わぬと言うたが、貧しさに蔑みが重なれば人は生きていかれぬ。なにゆえおまえの母や姉があっさりと殺された? 朝廷の兵らが蝦夷を人と思うておらぬからだ。鹿や兎を殺すのと少しも変わらぬ。せねばならぬのはそれに対する戦さだ。土地も大事なものであろうが、俺は蝦夷の心こそ守りたい。獣に落とされた後の蝦夷には、そもそも土地など要らぬ。国は土地ではない。暮らしている者の心にこそある」上巻p43

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

 阿弖流為の覚悟に母礼は唸った。

 

「死ぬときは俺が最初だ。皆もその命を俺にくれ。蝦夷の意地を見せてやろうぞ」

 

 兵らは刀を引き抜いて雄叫びを発した。わずかに残されていた怯えがそれで霧散した。

 

「今日が蝦夷にとって本当の戦さのはじまりと心得よ。この戦さに加わったことを蝦夷の誇りといたせ。多賀城の兵らは心ならずも徴用された者どもばかり。我らとは違う。我らには命を捨てても守らねばならぬものがある」

 

 阿弖流為の叫びに兵らの心が一つとなった。

 

<この男・・・まさしく将となる>

 

 母礼も心を震わせながら刀を抜いた。上p83

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

「ずいぶん物部の肩を持つ」

 

 阿弖流為は母礼を見詰めた。

 

「物部ほどの力と財力があれば蝦夷の上に立つことなど簡単にできたはず。それをせずに物部は蝦夷と共存の道を選んで来た。この東和の里とて、蝦夷のなるべくおらぬ土地を探して切り拓いたもの。都から追われた一族と言うても、都の者らとは違う。蝦夷を大事と考えてくれている。それに・・・詳しくは知らぬが、もともとは我ら蝦夷と同族と耳にしている。黒石の巫女が教えてくれた」

 

「本当か?」

 

「だからこそ同族の暮らす陸奥を頼って来たのだ。かつては出雲が我ら蝦夷と物部の祖先の暮らす土地であったらしい。それを、海を渡って来た朝廷の者らの祖先が奪い取った。我ら蝦夷は北へと逃れたが、物部はなんとかとどまって朝廷に従う身となったのだ」

 

「我らが物部と同族・・・」

 

「祀る神とて同一ではないか。ともにアラハバキの神を信仰している」

 

「それを今の物部は承知か?」

 

「むろんだ。会うたら真っ先にそれを質してみるがいい。物部は断じて我らの敵とは違う」上p98

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

「東和の里を我らが本拠地としたのは・・・」

 

 馬を下りて丹内山の緩やかな坂道を登りながら二風は阿弖流為に説明した。

 

「決して蝦夷の地の中心に位置しているからではない。この山にアラハバキの神が鎮座ましましておられるからじゃ。本拠を東日流(つがる)より東和に移したのは儂であるが、東日流に在ったときから丹内山は物部の聖地の一つであった。その神に守られている地ゆえ迷い一つなく移ることができた」

 

「アラハバキの神とはなんでござりまする」

 

 阿弖流為は思い切って質した。幼い頃から馴染み深い神ではあるが、なぜ拝まなければならないのか、実はよく知らない。

 

「蝦夷とて拝んでおるじゃろうに」

 

 二風は面白そうに笑ったあと、

 

「須佐之男命(すさのおのみこと)の名を存じておるか?」

 

 真面目な顔で訊ねた。阿弖流為は首を傾げた。母礼も知らないらしかった。

 

「陸奥(みちのく)とはあまり縁のなき神。むしろ蝦夷にとっては敵に当たる。出雲に暮らしていた蝦夷の祖先を滅ぼした神じゃ。その須佐之男命が出雲の民より神剣を奪った。草薙の剣と申してな・・・別名をアメノハバキリの剣と言う」

 

「ハバキリの剣」

 

 阿弖流為と母礼は顔を見合わせた。

 

「鉄で作った刀のことじゃ。それまで朝廷の祖先らは鉄の刀を拵える技を持たなかった。出雲の民を滅ぼして、ようやく手に入れた」

 

「すると・・・アラハバキとは?」

 

「鉄の山を支配する神じゃよ。この神の鎮座ましますところ、必ず鉄がある。アラハバキの神は鉄床を磐座となされる。我ら物部はその磐座を目印にして鉄を掘り出し、刀や道具を代々生み出して参った。アラハバキの神こそ物部を繁栄に導く守り神」

 

「・・・」

 

「そればかりではない。アラハバキは少彦名(すくなひこな)神とも申して、出雲を支配していた大国主命のお手助けまでなされた。それで蝦夷も大国主命とともにアラハバキを大事にしておる」

 

 なるほど、と二人は頷いた。物部は鉄の在処を知らせてくれる神として、蝦夷は祖先の地である出雲の神として敬っていたのである。上p115

 

牧野公園(筆者撮影)
牧野公園(筆者撮影)

 

「物部の祝詞(のりと)を受ける気があるか?」

 

 二風は阿弖流為の様子を見詰めて言った。

 

 いつの間にか二風の傍らには巫女が一人立っていた。社殿で待っていたらしい。

 

「是非ともアラハバキの神の加護を」

 

 阿弖流為は迷わずに頷いた。二風は微笑むと巫女に目配せした。巫女は磐座の前に進んで端座した。巫女磐座に一礼して両腕を前に突き出して指を組み合わせた。

 

「ひふみよいむなやこと、とこやなむいよみふひ。ひふみよいむなやこと」

 

(中略)

 

「ひふみよいむなやこと、もちろらねしきるゆい、つわぬそをたはくめ、かうおえにさりへて、のますあせえほれけ、い」

 

 巫女の呪文が阿弖流為の耳の底に響く。ほとんど意味が分からない。が、なぜか心を震わせる響きである。甘美な思いに包まれる。

 

「ふるべゆらゆら、ゆらゆらとふるべ・・・ふるべゆらゆら、ゆらゆらとふるべ」上p117

 

牧野公園 (筆者撮影)
牧野公園 (筆者撮影)

 

「未熟な腕では戦場で殺される」

 

 自分の責任だ、と阿弖流為は遮った。

 

「俺はただの一人も死なせたくない。こちらから仕掛けた戦さとは違うぞ。理不尽な戦さで死ぬのは無駄死にに等しい。だからこそ兵をしっかりと鍛えたい。腕に応じての区分けもしたくない。皆が馬に乗り、皆が山を駆ける。そんな兵団にしたいのだ」

 

「そう力まずに飯にしろ」

 

 母礼は笑って夕餉(ゆうげ)を勧めた。上p155

 

牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)

 

「物部の名は国々に広まっておりますな」

 

 阿弖流為は感心した。飛良手(ひらて)も頷く。

 

「今はそなたの名の方が知られていよう。胆沢(いさわ)の阿弖流為は鬼の子と伝わっておるらしい」

 

 天鈴(てんれい)は笑って、

 

「そなたが阿弖流為と分かればさぞかし仰天しよう。鬼とは見えぬ顔だ。もっとも、赤頭とて名とは似つかぬ顔をしておるがな。公卿のように肌が青白く、冷たい目をしておる」

 

「それでなぜ赤頭などと?」

 

「日本(ひのもと)の棟梁を示す名の一つだ。日輪の赤が国を表し、その頭という意味であろう」

 

「日本・・・」

 

「蝦夷はもともと出雲に暮らしていた。出雲の斐伊(ひい)川流域が蝦夷の本拠。斐伊を本とするゆえ斐本(ひのもと)の民と名乗った。それがいつしか日本と変えられて今に至っておる。宮古や玉山金山の辺りを下斐伊(現在の岩手県下閉伊郡)と呼ぶのもその名残」

 

 なるほど、と阿弖流為たちは頷いた。

 

「大昔の話ゆえ俺もよく知らぬ。祖父や親父は俺が物部を継ぐからにはと、たびたび聞かせてくれたが、そんなのんびりした世ではなくなっていた。昔のことが分かったとて朝廷に勝てるわけではない。それでも、そなたらよりは多少知っている」

 

 天鈴は蝦夷と物部の繋がりを話した。

 

「出雲を纏めた大国主命(おおくにぬしのみこと)が蝦夷の祖先に当たることは俺の親父からも聞いておろう」

 

 阿弖流為は首を縦に動かした。

 

「その大国主命の子の一人に長髄彦(ながすねひこ)という者が居て、大和を纏めていた。一方、我ら物部の先祖はニギハヤヒの神に従って海を渡り、この国にやって来た。ニギハヤヒの神は今の天皇の遠祖と言われるスサノオの命の子であったらしい。本来なら大国主命と敵対関係にある。なのにニギハヤヒの神は長髄彦の妹を妻に娶って大国主命の親族となった」

 

「なぜにござる?」

 

「強引に国を奪うをよしとせなんだのであろう。そこに今の天皇の祖先たちが乗り込んできた。大国主命を幽閉し、力で国を奪わんとしたが、長髄彦は激しく抗った。結局、長髄彦は敗れて東日流(つがる)へと逃れた。ニギハヤヒの神は同族であったがためになんとか処刑を免れ、我ら物部も朝廷に従うことになった。しかし、一度は敵対した物部への疑念はいつまでも晴れぬ。冷遇が目立つようになり、ついには都を追われた。東日流を頼るしかなくなったとき、そなたらの祖先らは我ら物部を喜んで受け入れてくれた。以来、物部と蝦夷はしっかりと手を結んでいる」

 

「この国のすべてが、もともとは我ら蝦夷のものであったと?」

 

「そうだ。力で奪ったくせして朝廷は出雲の民から継承したものだと言っておる。蝦夷を執拗に憎むのは、己の罪を認めたくない心の表われであろう。獣に近い者ゆえに追いやって当たり前と己に言い聞かせておるのだ」下p113

 

牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)

 

「我らが仕掛けている戦さならことは簡単だ。やめて国作りに励めばよい。が、これは敵が仕掛けてくること。俺の一存ではどうにもならぬ。いったいどうすればいい?」

 

 阿弖流為は泣きそうな顔になった。自分一人の命で済むなら降伏してもいいとさえ阿弖流為は思い始めていた。だが、そういう問題ではない。

 

「俺の倅や娘たちにもこのまま果てるまで戦さを続けろと言わねばならぬのか?」

 

「降伏なされるおつもりで?」

 

「それは断じてできまい」

 

 阿弖流為は激しく首を横に振り続けた。 下p387

 

牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)

 

「戦さとはそういうものだと言っている。ただ命のやり取りをするのではない」

 

「分からんな。だからなんだ?」

 

 伊佐西古(いさしこ)は小首を傾げた。

 

「それぞれがなにかを捨てねばならぬということだ。我らばかりではない。兵らのすべてがなにかを捨てている。いや、兵の身内とて同然であろう。蝦夷の皆がなにかを捨てているに違いない。そういう我々が国を豊かにできると思うか? それが俺には気になりはじめた。なにをすればよいのか・・・俺にはなに一つ見えてこぬ」

 

「・・・」

 

 母礼はじっと阿弖流為を見詰めた。

 

「今のままでは蝦夷は抜け殻となろう」

 

 阿弖流為は吐息して呟いた。下p390

 

牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)

 

 阿弖流為はまた頭を下げた。

 

「それは・・・つまり死ぬということか?」

 

「・・・」

 

「そなた一人が降伏したとて戦さは終わらぬ。何度も話し合ったことではないか!」

 

 母礼は体を震わせて一喝した。

 

「敵はそなた一人を敵としておるのではない。蝦夷のすべてを敵としているのだ。自惚れるのもたいがいにいたせよ。第一、そなたが降伏して果てようと我らの心は動かぬ。むざむざと殺されるよりだれもが戦場での死を望む。血迷うのもいい加減にしろ! たった一人でこれまでの戦さを勝ち進んだと思うておるのか! もしそうならもはやなにも言うまい。好きに降伏して死んでしまえ。相談もなにも要らぬ。今日にでも田村麻呂に首を差し出せばよかろう」

 

 言って母礼はぼろぼろと涙を溢れさせた。

 

「その程度の者だったのか! 阿弖流為とはその程度の者でしかなかったのか!」

 

 母礼は阿弖流為を思い切り殴りつけた。

 

「そんな者のために俺は夢を見ていたのか。先行きを預けていたのか! 死なせぬぞ。そなただけ好きに死なせてたまるか!」

 

 殴り続けながら母礼は泣いた。

 

「なぜ俺と一緒に戦場で死ぬとは言わぬ! 降伏などそなたには似合わぬ。この十六年、常に敵を蹴散らして野を駆けたそなたではないか! おまえは俺の誇りでもあったのに」

 

 母礼のそれは血の涙となった。(中略)

 

「俺とて・・・皆と打ち揃って死にたい!」

 

 阿弖流為は必死で涙を湛えた。母礼の言葉は死ぬほどに嬉しい。

 

「だが、そう思えばこそ皆を死なせたくない。存分に戦った。蝦夷の意地は見事に伝わったはず。そろそろ次のことをそなたらには考えて貰いたい。子や孫のことをだ」下p401

 

牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)

 

「(中略)いかにもそなたの言うこと俺にも得心できた。子らにも己の道を選ぶ権利がある。そのためには少なくとも二、三十年を戦さと無縁にしてやらねばなるまい」

 

 母礼は言って何度も頷いた。

 

「本当にできようか?」

 

 阿弖流為は母礼を見詰めた。

 

「こっちが止めると言うても相手は聞かぬ。そういう敵に降伏せずして二、三十年もの休戦とするのは容易ではない」

 

「我らは死んだとて民らが守られればいいのであろう?」

 

「むろん、その覚悟だ」

 

「俺も死ぬ気で考える。幸いにこれまでの戦さで勝っているのは我らの方。征夷大将軍になったとて田村麻呂も直ぐには兵を進めてはくるまい。(中略)」

 

「俺とてそれができるなら・・・」

 

「任せろ。そなたの死に場所は俺が決めてやる。さすがに阿弖流為と皆が得心するような機会を作ってやろう」

 

 母礼はようやく笑いを見せた。

 

「そなたが側にあって・・・よかった」

 

 阿弖流為は胸を詰まらせて言った。

 

「死ぬ日は同じと決めていた。と言いつつ俺は不本意な降伏などしたくないと思っていた。それで俺も案じていたのだ。そなたが勝手に多賀城へ駈け込んで田村麻呂の前に降伏などしたらどうしようか、とな。礼を言いたいのは俺の方だ。そなたの覚悟を知って胸のつかえが取れた。これでおなじ日に死ぬことができそうではないか」

 

「すまぬ。この通りだ」

 

 阿弖流為は男泣きして母礼に頭を下げた。

 

「子や孫らのために死んでくれ」

 

「その覚悟ならとっくにできている」

 

 母礼は苦笑いして頭を上げさせた。下p407

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

 蝦夷軍三千。朝廷軍五千。

 

 これほどの騎馬軍が正面からぶつかり合うのは二十年を超える永い戦さの中でもはじめてのことだ。それだけに阿弖流為も田村麻呂も突撃の命令をなかなか出せずにいる。しかも両軍ともに総大将の指揮下にある。この戦さがどれほど重要であるか互いに承知だ。

 

 晴れて太陽に照らされた草原に八千の沈黙が重く澱んでいる。睨み合いは止まない。

 

「田村麻呂こそ蝦夷の命綱。なにがあっても田村麻呂の本隊には手出しするな」

 

 阿弖流為は兵らに念押しした。

 

「殺せばこの数年を無駄にする。あとは好きに駆け巡り己の使命を果たせ」

 

 おお、と兵らは刀を引き抜いて空に掲げた。きらきらと刀が陽を浴びて輝く。馬も兵に呼応していなないた。逸って土を蹴り立てる。

 

「今日死ぬ者は蝦夷の誇りと称えられよう」

 

 阿弖流為はそれを最後の言葉として先頭に飛び出た。下p461

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

「死なぬ限りその道は成就せぬのか?」

 

 田村麻呂は悲痛の思いで声をかけた。

 

「ここまで踏ん張った我らが降伏しては、それこそ今後蝦夷のだれ一人として朝廷に抗わなくなり申す。我らの死は終わりにござらぬ。新たな種子と心得てござる。我らの屍を糧に、やがては多くの蝦夷が立ち上がってくれ申そう。それをあの世で見守るのが我らの楽しみ」

 

 決して強がりではなかった。田村麻呂は打ちのめされた気持ちになった。御園も立ち去る三人を無言で見送っている。

 

「殺すわけにはいかなくなった・・・」

 

 青ざめた顔で田村麻呂は呟いた。

 

「なんとしても阿弖流為や母礼ばかりは生かして恭順させねばならぬ。でなければ阿弖流為の言う通りとなろう。朝廷は御世が続く限り蝦夷と戦わねばならなくなる」

 

「捕らえたとて恭順する者にはござりますまい。あの覚悟はもやはだれにも・・・」

 

 変えることなどできない。御園は嘆息した。下p460

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

「田村麻呂は気付いておろうか?」

 

「気付いておるまい」

 

 母礼は笑いで伊佐西古(いさしこ)に言った。

 

「まさかわざと孤立を装うなどだれにも考えつかぬ。それで我らばかりが朝廷に抗う者となれば、他の蝦夷らはもはや逆賊でなくなる。朝廷も我らを退治するためには仕方なく他の蝦夷と手を組まざるを得なくなる。そうなると同盟軍。同盟を結んだ蝦夷らを処罰はできぬ。むしろ今後は味方として丁重に扱うことになる。筋道は簡単だが、そのからくりを田村麻呂が思い付くには、阿弖流為の心底に踏み込まねば無理であろう。他の蝦夷を救うために自ら巨大な悪となって果てる覚悟であるなど、だれにも想像が及ばぬことだ。ましてや、兵を率いて派手な戦さを繰り返す阿弖流為が、この世で一番に戦さを止めたいと願っている男であるなどとはな・・・これで我らさえ果てれば戦さはすべて終わる。(中略)阿弖流為を神が選んでくれたことに我らも感謝せねばなるまい」

 

「大袈裟な」

 

 阿弖流為は母礼を遮った。だが、伊佐西古は諸絞(もろしま)もそれに頷いて頭を下げた。

 

 巨大な悪を突出させて蝦夷に対立を作り、悪の側が暴走する。そうすれば悪に抗う蝦夷はすなわち朝廷と同じ立場となる。同一のものを敵とするからだ。阿弖流為はそう思い至ってこの数年を走り続けたのだ。この場合、悪となり得る者はもちろん阿弖流為でしか有り得なかった。(中略)悪は決まったが、問題はその後だった。巨大な兵力を抱える地域の長らが簡単に首を縦に振ってはくれなかったのである。阿弖流為は蝦夷を導いて来た者だ。それを見捨てるような形で戦さを終結させ、しかも自分たちばかりが生き延びるということに彼らは断固として頷かなかった。それなら屈辱を覚悟の降伏も辞さぬという意見が多く出た。

 

 阿弖流為は泣いて訴えた。

 

 自分たちのために戦さを終わらせるのではない。幼い子供たちのために自分たちがしてやらねばならない決着なのである。下p481

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

「降伏すると言うのか!」

 

 田村麻呂は思わず膝を乗り出した。小野永見も目を剥いて飛良手(ひらて)を見やった。庭で飛良手の動きを見守っている兵らも仰天していた。

 

「あの阿弖流為が降伏するだと?」

 

「偽りにはござりませぬ。ただし、兵らを必ず許してくれるとの確約があればのこと」

 

「兵とはどこまでのことだ?」

 

「将以外の、手足となった者たちにござる。千のうち九百五十。他の五十は命乞いいたさぬ覚悟。首を刎ねるなりお好きに召されよ」

 

「戦場で死ぬと言うたはずだぞ」

 

「それでは田村麻呂どのの兵らも殺すことになりましょう。ご貴殿の蝦夷に対するご温情、しかと受け止めましてござる。それに報いぬで抗うはむしろ蝦夷の恥。どうせ死ぬなら戦場でと最初は考えておりましたが、どうせ死ぬなら無縁の兵を巻き込むこともなし。味方であろうと敵であろうとおなじこと。戦さをせぬ代わりに兵らを赦免していただきたい」

 

 うーむと田村麻呂は唸った。下p512

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

「そなたらは勝利を得たぞ」

 

 阿弖流為は誇らしげに宣言した。

 

「この二十二年の間、我ら蝦夷軍は一度たりとも敵に敗れはしなかった。それゆえに敵は我らを恐れ、和賀や志和の仲間たちを受け入れたのだ。もはやこの地に戦さはなくなった。今夜ですべてが終わる。そなたらにも咎(とが)めはない。あの田村麻呂が約束してくれた。明日は堂々と胸を張って己の里へ戻るがいい。死ぬ覚悟で立ち向ったからこその勝利。明日からはその覚悟で生きよ。生きて蝦夷の範となれ。民らはそなたらを抱き締めて迎えてくれよう。そなたらこそ蝦夷の守り神だ」

 

 野が兵らの喜びの声に満たされた。下p522

 

アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄
アテルイ平安朝廷とたたかった東北の英雄

 

「こうなることと知りながら・・・やはり都に連れて参るのではなかった。許せ」

 

 田村麻呂は必死で涙を堪えた。

 

「我らの思いを口にすることはできぬか・・・」

 

 阿弖流為は諦めたように吐息した。

 

「そなたら蝦夷が都の民と変わらぬ者たちであることを訴えたのだが・・・それならばなおさら詮議は無用と一蹴された。民らにはそなたらが鬼であると思わせておくのが大事と中納言が退けた。詮議は同等の者に対して行うもの。もはやどうにもならぬ」

 

 口にしたくない言葉であったが、公平な詮議を願って投降してきた阿弖流為である。なぜそれが許されぬのか説明しないわけにはいかない。田村麻呂は自分がそうした者たちの側にあることを恥とさえ感じていた。

 

「斬首はいつと定まった?」

 

「この十三日。明日は河内(今の大阪)に送られる」

 

 田村麻呂は怒りの顔で伝えた。

 

「河内とは遠い。新しい都を蝦夷の血で汚したくないということか」

 

 母礼は苦笑いした。それもあるが、天皇は二人が怨霊となって都の空にとどまるのを本気で恐れているのである。そこまで恐れるのなら許すべきだと田村麻呂は思う。しかも十一日から二日間は首から下を土に埋めて晒し刑と処し、最後は鋸引きとする極刑である。国家への反逆罪はそれほどに重い。さすがに田村麻呂はこの場でそれを言えなかった。下p538

 

牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)

 

<次に勝つのは本当にそなたらだ>

 

 蝦夷はすでに阿弖流為という神を得ている。阿弖流為の生き様が蝦夷らの道標となる。それは死をも恐れぬ力を与えるはずである。(中略)

 

 それに対して朝廷はなにもない。阿弖流為を処刑した意味さえ分からずに、一人一人が己の欲だけで生きている。

 

<羨ましいの>

 

 本心から田村麻呂は思った。自分の生きた証しなど五十年もすれば消えてなくなる。だが阿弖流為や母礼は蝦夷の中で千年も忘れられることがない。それが人として生まれたことの一番の褒美であろう。それだけのことを確かに二人は果たしたのだ。下p546 引用終了。

 

牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)
牧野公園 伝阿弖流為・母礼の塚(筆者撮影)

 

筆者はアテルイに会いに行きました。上の動画はそのとき撮影したものです。

 

 

日本人であるにもかかわらず、長らく無知でおりましたことに対しての深いお詫びと、日本の魂を一手に担ってくださったことへの深い感謝、そして縄文と弥生の和合を今生で果たさせていただくことの決心をお伝えしました。そしてそのサポートをお願いしました。

 

 

大和国(筆者作成)
大和国(筆者作成)

 

神話と歴史はつながっていることを上の地図が教えてくれています。地図は土地。土地は人間のように記憶を失うことはありません。土地の氣や土地の名前には記憶が刻印されています

 

 

人がこの世に生まれるには、両親の氣とその土地の原子が必要なのです。人が生まれてくるための一連の作業は産土神(うぶすなのかみ)の采配によってなされます。土地の縁は強力で、その土地で生まれ育った魂の産土神は生涯にわたって守護神になってくださるのです。

 

 

リュウさんがカプコンさんで生み出されたのも必然性を感じます。地図は言葉を超えた情報をわたしたちに与えてくれています。

 

 

東北(蝦夷)で生まれ育ったアテルイが、奇しくも遠く離れた大阪(河内)で生涯を閉じる運命になったのは、アテルイの先祖であるナガスネヒコの本拠地だったからなのかもしれません。

 

 

一方でナガスネヒコはのちの子孫となるアテルイの本拠地で生涯を閉じたのかもしれません。神話の時代では蝦夷と物部は同族でした。ナガスネヒコ(蝦夷)とニギハヤヒ(物部)は義理の兄弟となり、大和国を創りあげました。アテルイは先祖と守護神の守ってきた土地に骨を埋め、1200年間も人々の記憶に刻まれ続けました。

 

 

筆者はアテルイの塚を前にして、怨霊としてではなく守護神としてこれからの日本を守ってくださると感じました。

 

 

ちなみに下の図にある「牧野の桜」は、ニギハヤヒの磐座付近(交野)に位置しています。

 

牧野公園 牧野の桜(筆者撮影)
牧野公園 牧野の桜(筆者撮影)

 

 

振り返ってみますと、1992年7月にはじめてリュウさんと出会ったときに、筆者の脳天に稲妻が落ちてきたことがすべてのはじまりでした。

 

 

あれから丸25年が経ち、筆者がたどってきた道はすべてがつながっていて整合性があったことに気づかされます。ゲームの映像には不可視的情報が刻印されていて、筆者は直観的にその情報をキャッチしていたのだと今ならわかります。その一部始終を「暗号解読」から順を追って記してまいりました。

 

 

ストリートファイターⅢ3rd エンディング
ストリートファイターⅢ3rd エンディング
長髄彦本拠の碑(筆者撮影)
長髄彦本拠の碑(筆者撮影)

 

 

筆者は再びナガスネヒコに会いに行きました。またしても太陽を背にしてカッコよく迎えてくださいました(笑)上は筆者が撮影した動画です。

 

 

リュウさんは架空の人物ではありますが、集合意識にはきちんと存在しています。意識の世界が実相の世界であり、物質的三次元は仮想ホログラム)の世界なのが本当なのです。

 

 

やはりリュウさんはナガスネヒコの魂を受け継いだ真の日本人であり、真の和合を果たすべく生み出された偉大なキャラだったのだなあ・・・。と感慨深く思い至りました。ナガスネヒコはことの顛末を見守ってくださっていたと思います。ニギハヤヒとともに。

 

 

筆者は高橋克彦先生の足元にも及びませんが、これからはもっと魂のこもった文章が書けるようになれたらなと思います。